第15-7号 スーパーの中の銀行

 

 アメリカではここ数年インストアブランチといって、スーパーマーケットの中に銀行の小さな支店を設置する事例が増えています。これは日本のようにコンビニエンスストアの中にATMの機械があるのではなく、大きなスーパーの中にカウンターと銀行員がいる支店があるのです。全米で7,000以上、つまり銀行の店舗の約1割はこうしたインストアブランチとなっています。


  
スーパーの中のインストアブランチ



・インストアブランチのメリット

 銀行にとって、スーパーの中に支店を作るメリットは、たくさんのお客さんが支店の前を通るため、新しいお客さんを獲得しやすいといえます。お客さんからみても土日でもあいていたり、夕方も遅くまであいていることが多いため、便利ですし、買物のついでに気軽に寄ることができるのが魅力です。スーパーマーケットにとっても、銀行に用事があってスーパーにくるお客さんについでに買物をしてもらう、というメリットがあります。

 

・銀行にとってのインストアブランチの位置付け

 スーパーに来るお客さんは、企業の財務担当者ではなく、一般の個人消費者ですから、銀行にとっては、個人顧客を対象に預金、住宅ローン、消費者ローンなどを提供するのがインストアブランチの役割です。よって、個人よりも企業に対象顧客を絞っている銀行は、インストアブランチには力を入れていません。また、米国ではインストアブランチは、通常の支店よりも「セールス指向が強い」支店といわれています。実際に、銀行の職員も積極的に銀行のカウンターからスーパーの通路に出てセールスを行っています。銀行によっては、職員は例えば1時間あたり1020人のお客さんに声をかけること、と目標を決めているところもあります。このため、インストアブランチの職員は、本部から派遣された銀行員らしい銀行員ではなく、セールスパーソンを新たに雇うべきだという説もあります[1]。一方、大抵のお客さんは週に2回はスーパーに来店するため、押し売りをするのではなく、お客さんに親切にしていればそのうち銀行のお客さんにもなってくれる、と考える銀行経営者もいます。

 

・インストアブランチがアメリカで多い理由

 アメリカではお金の支払いの仕組みが日本とは異なります。例えば給料などは振込みではなく小切手でもらうことも多く、この場合は銀行に小切手を持って行って自分の口座に入れてもらう必要があります。このため、スーパーのように自分がよく行く便利なところに銀行の支店があると助かるわけです。また、インストアブランチは支店設置コストが通常の支店よりも低く、場合によっては普通の支店の1割程度のコストで済むこと、アメリカの銀行では事務処理などの後方事務の多くを支店ではなく本部で集中して行うため、小型の支店をつくりやすいという事情もあります。

 

ATMやインターネットの時代でも銀行の支店数は増えている

 米国の銀行の数は合併などで減少していますが、全ての銀行の支店の数の合計は増えています。つまり、ATMやインターネットの時代になっても、インストアブランチを含めて、フェイストゥフェイスの支店が増えているのです。その点について前にアメリカの銀行の人に聞いたことがあるのですが、アメリカの人はお金を引き出す相手は機械でもよいのですが、お金を預ける相手は人じゃないとどうも安心できない人が多い、と聞いたことがあります。ハイテクの時代になればなるほど、フェイストゥーフェイスの重要性が高まるのかもしれません。

 



[1] Austin, D.V., “The Community Bank Survival Guide,” McGraw Hill, 1988